FMEA(故障モード影響解析)とは?
製品の不具合を「起きてから直す」のではなく、「起きる前に潰す」——そのための体系的な手法がFMEAです。しかし実際には、「書き方がよくわからない」「毎回コピペで済ませている」「客先から提出を求められたが、何を書けばいいか迷っている」という声を、当社は製造委託のご相談の中で繰り返し耳にしてきました。
本記事では、FMEAの定義・種類・評価方法・実施手順から、現場でよく起きる形骸化の原因とその対処法、さらにフロントローディングとの関係まで、体系的に解説します。最後に、日東電気グループ小山工場がEMS・基板実装の現場でFMEAをどのように活用しているかもご紹介します。
FMEAとは?
【定義】 FMEAとは、製品や工程に潜む「故障モード(失敗のパターン)」を事前に洗い出し、その影響の深刻さ・発生頻度・検出難易度を数値で評価して対策の優先順位を決める品質管理手法です。
FMEAは「Failure Mode and Effects Analysis」の頭文字を取った略称で、日本語では「故障モード影響解析」と訳されます。ISO9001やIATF16949においても、製品品質を担保するためのコアツールの一つとして定義されており、自動車・電子機器・医療機器など、幅広い業種で活用されています。
FMEAの最大の特徴は「予防」に重点を置いている点です。問題が発生してから対応する「是正処置(後追い型の品質管理)」とは対照的に、設計や工程計画の初期段階でリスクを特定し、対策を織り込む「予防処置(源流管理)」を可能にします。
故障モードとは
「故障モード」とは、製品や部品が本来の機能を果たせなくなる状態のパターンを指します。たとえば、基板が起動しない原因として考えられる「電源ラインの断線」「はんだ不良によるオープン回路」「部品の逆挿し」などがそれぞれ故障モードに該当します。FMEAではこの故障モードを一つひとつ列挙し、それぞれについて影響・原因・対策を整理していきます。
FMEAが生まれた背景
FMEAの起源は1950年代のアメリカ軍の信頼性工学にあるとされており、その後NASA・JAXAなどの宇宙航空分野を経て、1970〜80年代に自動車業界へ普及しました。現在では、IATF16949のコアツールの一つとして自動車サプライヤーへの適用が事実上の要件となっており、電子機器・医療・産業機械など多くの分野に広がっています。
FMEAの2つの種類:設計FMEAと工程FMEA
【定義】 FMEAは「設計FMEA(D-FMEA)」と「工程FMEA(P-FMEA)」の2種類に大別されます。着目する対象が異なるため、目的に応じて使い分けることが重要です。
設計FMEA(D-FMEA)
設計FMEAは、製品の設計段階で潜在的な故障モードとその影響を予測・評価するものです。「この形状・材質・公差で設計した場合、使用中にどのような故障が起きうるか」を図面や仕様の段階で洗い出します。設計が確定した後に問題が発覚すると、金型修正・設計変更・試作やり直しといった多大なコストと時間を要します。だからこそ、試作前の上流段階で実施することに意義があります。ただし、すべての設計変更箇所に対して一から実施する必要はなく、変更点に絞った分析(DRBFMと組み合わせる手法)も有効です。
工程FMEA(P-FMEA)
工程FMEAは、製造工程における故障発生の原因とメカニズムを追求し、工程の改善につなげるためのものです。「この工程でどのような不良が発生しうるか」を工程設計の段階で洗い出し、QC工程図(コントロールプラン)への管理方法の反映へとつなげます。設計FMEAで明らかになった設計起因のリスクを、工程FMEAで製造段階の管理策として落とし込む流れが理想的です。
どちらを先に実施すべきか
原則として、設計FMEA→工程FMEAの順で実施します。設計段階で製品の潜在リスクを明らかにした上で、それを受けて工程設計を行い、工程FMEAに展開するのが本来の流れです。設計完了後に工程FMEAだけを実施しているケースは少なくありませんが、設計起因のリスクが工程管理でカバーできない場合もあります。可能であれば、両者を並行して進める体制が望ましいと当社では考えています。
FMEAの評価方法:RPNとAP
【定義】 FMEAでは各故障モードのリスクを数値化して優先順位を付けます。従来はRPN(リスク優先数)が主流でしたが、2019年の改訂以降はAP(優先処置)への移行が進んでいます。
S・O・Dの3指標とRPNの計算式
従来のFMEAでは、各故障モードに対して以下の3指標を1〜10で評価し、その積をRPN(Risk Priority Number)として算出します。
| 指標 | 英語名 | 内容 | 評価の目安 |
| S(深刻度) | Severity | 故障が発生した場合の影響の大きさ | 10:安全・法規に重大影響 / 1:影響ほぼなし |
| O(発生頻度) | Occurrence | 故障が発生する可能性の高さ | 10:ほぼ確実に発生 / 1:発生はほぼゼロ |
| D(検出困難度) | Detection | 故障を検出できない可能性の高さ | 10:検出ほぼ不可能 / 1:必ず検出できる |
RPN = S × O × D(最小1、最大1,000)
一般的にRPN 100〜125以上の故障モードを優先対策の対象とする運用が多く見られます。ただし、S(深刻度)が9〜10の故障モードは、RPNが低くても最優先で対策を検討することが推奨されます。
2019年以降の新評価基準「AP」とは
2019年にAIAG(米国自動車産業行動グループ)とVDA(ドイツ自動車工業会)が共同で発行したAIAG-VDA新版FMEAでは、RPNから「AP(Action Priority:優先処置)」に評価方法が変更されました。APは「HIGH(必須対策)・MEDIUM(対策推奨)・LOW(監視継続)」の3段階で示されます。RPNの数値だけで優先順位を付けていた旧版の課題——たとえば「S=10・O=1・D=1」のRPN=10が軽微な故障と同列に扱われてしまう問題——を改善した方式です。IATF16949認証工場では、2019年以降の新版への対応が求められるケースが増えています。
RPNの閾値をどう設定するか
閾値の設定は組織・産業によって異なります。「100以上を優先対策」という運用が多い一方、S=9〜10の項目はRPNに関わらず必ず対策を検討する、という原則を組織内で明文化することが重要です。評価基準が担当者によってばらつくと、客観的な優先順位付けができなくなります。当社では、評価基準の社内統一が形骸化防止の最初のステップだと考えています。
FMEAの実施手順
【ポイント】 FMEAは「一度作って終わり」ではなく、設計・工程の変更や市場不具合のフィードバックを受けて継続的に更新していくものです。
ステップ1:対象範囲と構成要素の特定
まず、分析の対象となるシステム・製品・工程を明確にし、その構成要素(部品・工程ステップ)を列挙します。対象が曖昧なまま進めると、重要な故障モードの見落としにつながります。クロスファンクショナルチーム(設計・製造・品証・調達など複数部門)で実施することが推奨されます。1チームあたり4〜5名程度が実務的には適切です。
ステップ2:故障モードの洗い出し
各構成要素について「どのような失敗のパターンが起きうるか」を列挙します。外観不良・寸法不良・電気特性不良・組付け不良など、カテゴリを意識しながら漏れなく洗い出すことが最重要です。この洗い出しに最も時間をかけるべきで、ここで抜けた故障モードはその後のプロセスで対策できません。過去の不良データ・類似品の実績・客先クレーム履歴を積極的に活用します。
ステップ3:影響・原因・対策の分析
各故障モードについて、①上位系への影響(製品・顧客への影響)、②発生原因(設計や工程のどこに起因するか)、③現行の予防策と検出策を整理します。FMEAシートに記録することで、「なぜその設計になったか」という設計思想の根拠を組織の技術文書として残せます。これがベテラン退職後の技術継承にも直結します。
ステップ4:RPNまたはAPによる優先順位付け
S・O・Dをそれぞれ評価し、RPNまたはAPで優先順位を付けます。評価は個人の主観に依存しないよう、組織内で「発生頻度5点とは過去の類似工程で年1回程度の発生実績があるレベル」のように具体的な判断基準を文書化しておくことが不可欠です。
ステップ5:対策実施と再評価
優先度の高い故障モードから「誰が・いつまでに・何を実施するか」を明確にした改善計画を立て、実施後に再度S・O・Dを評価してRPN(またはAP)の低減を確認します。対策後のRPNが目標値まで下がらない場合は、追加の改善策を検討します。FMEAは設計変更・工程変更のたびに更新し、市場不具合が発生した際もフィードバックして最新の状態に保ちます。
FMEAが形骸化する3つの原因
【ポイント】 FMEAを実施している日本企業の中でも、効果的に運用できていると言える企業は意外に少ないのが実態です。形骸化の原因は、担当者の努力不足ではなく運用構造にあります。
「FMEAを毎回やっているのに、同じ不良が繰り返し出る」——この状況に心当たりのある方は少なくないはずです。弊社がお客様からご相談を受ける中でも、「FMEAは一応やっている」という工場ほど、形骸化の構造が固定してしまっているケースを目にします。
「提出義務」になった瞬間に形骸化が始まる
多くの企業でFMEAが「品質マニュアル上の提出義務」として扱われています。設計プロジェクトの最終段階で品質保証部門から「FMEAを提出してください」と求められ、その時点では設計内容も固まっており、リスク洗い出しを新たに行う意味がほとんどなくなっている——このケースが最も典型的です。結果として、FMEAが「事後報告書」になってしまいます。FMEAは本来、設計の意思決定を支援するツールです。提出を目的にした瞬間に、その機能を失います。
品質部門だけで作るFMEAが見落とすもの
品質保証部門が単独でFMEAを作成するケースも形骸化の典型です。製造現場の担当者が参加しなければ、実際の組立作業で起きうるミスや、材料ロットの変動による影響が洗い出せません。設計者が参加しなければ、設計意図の背景にあるリスクが見えません。FMEAは「知っている人が集まって初めて機能する」ツールです。部門横断チームでの実施が形骸化防止の前提条件です。
設計完了後のFMEAに意味はあるか
なぜ設計完了後のFMEAが無力なのか。答えは明快です。設計が固まった段階では、発見したリスクに対して取れる対策の選択肢がほぼなくなっているからです。部品コストの70〜80%は設計の初期段階で確定するとされています。つまり、FMEAで真にコストを削減し、品質を作り込むためには、設計の自由度がある上流段階での実施が絶対条件です。「形骸化したFMEA」から脱却するには、実施タイミングの見直しが最初の一手になります。
>> フロントローディングとは?設計初期段階からの品質作り込みについて
FMEAとフロントローディングの関係
【ポイント】 FMEAを最大限に機能させるには、フロントローディング——設計初期段階に工数・知恵・リソースを集中投入するアプローチ——との組み合わせが不可欠です。
上流で潰すほどコストは下がる
設計段階で1の工数をかけて問題を解決できるものが、試作段階では10の工数、量産開始後では100の工数を要すると言われています。この「1:10:100の法則」がフロントローディングの根拠です。FMEAを設計初期段階で実施することで、後工程での大幅な設計変更・金型修正・リコールといった損失を未然に防ぎ、開発全体のコストを削減できます。
FMEAを「書類」ではなく「設計判断の道具」にする
弊社はこう考えています——FMEAは「提出する書類」ではなく、「設計の意思決定を支援する道具」として機能したとき、初めてその本来の価値を発揮します。そのためには、設計者自身がFMEAに参加し、「自分が気づいていない不具合を見つけてもらう」ために使うという意識の転換が必要です。製造委託先がFMEAの議論に加わることで、設計者単独では見えなかった製造現場の視点——部品の組立性・工程の制約・検査の限界——をFMEAに織り込むことができます。
日東電気グループ小山工場のFMEAへの取り組み
【ポイント】 設計初期から製造委託先が品質作り込みに参画することで、試作・量産での手戻りを上流で完全に潰すことができます。
設計初期から参画する品質作り込みの姿勢
日東電気グループ小山工場(電子機器EMS・基板設計・実装)では、お客様から設計の初期段階でご相談いただき、FMEAを含む品質作り込みのプロセスに参画しています。当社にご相談いただく案件の中には、図面が固まった後に「念のためFMEAも出してほしい」とご依頼いただくケースもあります。しかし、弊社としては、設計の自由度がある段階から一緒に故障モードを洗い出す体制をとることで、試作や量産での手戻りを防ぐことができると考えています。
小山工場で実施しているFMEAの具体的な進め方
小山工場では、基板設計・実装の工程を対象とした工程FMEAを、部門横断チームで実施しています。試作少量実装から量産への移行時、工程変更時、客先仕様変更時の3つのタイミングを特に重視しており、洗い出した故障モードはQC工程図に反映させる形で運用しています。また、Bluetooth活用による検査工程の改善など、実際の工程経験から得た知見をFMEAに還元することで、形骸化しない運用サイクルを意識しています。
製造委託先としての品質保証体制
小山工場では、試作少量実装・多層基板(20層の実績あり)・通信基板・基板ポッティングなど、幅広い実装案件に対応しています。「とりあえずなんでもOK」という間口の広さを持ちながら、FMEAを含む品質作り込みのプロセスを実装案件の上流から提供できる点が、単なる加工委託先との違いです。ただし、FMEAの実施体制や対応範囲はプロジェクトの規模・要件によって異なりますので、まずはお気軽にご相談ください。
FMEAのことなら、日東電気グループにご相談ください
FMEAの書き方がわからない、形骸化した運用を改善したい、製造委託先と一緒に品質作り込みを進めたい——そのようなお悩みをお持ちの方は、ぜひ日東電気グループへご相談ください。小山工場をはじめ、グループ各工場が設計初期からお客様の品質保証プロセスに参画し、FMEAを含むフロントローディング支援を行います。
ユニットOEM・電子機器EMS・基板設計実装・ダイカスト・プラスチック成形・精密機械加工・FRP・金型設計製作まで、グループ内の工場間連携による一貫生産体制でお客様の「手離れ」を実現します。
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よくある質問
Q. FMEAはいつ実施するのが最適ですか?
A. 設計・工程設計の初期段階が最も効果的です。設計が確定してからでは取れる対策の選択肢が大幅に減ります。新製品開発時・設計変更時・工程変更時の3つのタイミングでの実施が推奨されます。
Q. 設計FMEAと工程FMEAはどちらを先に作るべきですか?
A. 原則として設計FMEA→工程FMEAの順です。設計段階のリスクを明らかにした上で、工程設計・工程FMEAに展開するのが本来の流れです。
Q. RPNとAPはどちらを使うべきですか?
A. IATF16949対応が必要な場合は2019年改訂のAIAG-VDA新版に準拠したAPが推奨されます。既存のRPN運用を継続する場合も、S=9〜10の項目は数値に関わらず最優先で対策するルールを設けることが重要です。